留学生の1日
システム創成学専攻
川畑研究室修士1年
諸星 璃月
システム創成学専攻 川畑研究室修士1年 諸星 璃月
留学先:スウェーデン王立工科大学(KTH)
留学体験記
この「留学生の1日」という年度毎の体験記は渡航前に留学を想像できる有難いコンテンツであり、今回私の記事がその一つに加わることを光栄に思う。
ちなみに自分の留学先であるKTHのものは全て渡航前に目を通していた。その中で私の好みだったものは2018年度の堀さんの体験記[1]だ。これは留学前の準備の体験記になっているのが特徴だ。そこで今回は堀さんの留学準備体験記を読んで準備した私の留学準備体験記を主に書く。つまり、堀さんの記事を引用しながら、堀さんの体験記と異なる体験をした部分しか書かない。結論から言えばなんとかなるが、ハプニングがいくつかあったのでそれをお伝えする。
*KTHのみを対象としています。
留学準備体験記
概要[1]
留学する際に必要な手続きは,大まかに分けると以下のものがある.
1. 日本政府への手続き(パスポート)
2. KTHへの手続き(Letter of Acceptance)
3. 東大への手続き(留学許可書,JASSO関連)
4. スウェーデン移民局への手続き(Residence Permit)
多少の前後はあるものの,基本的にはこの順で行った.
史実
面接に受かりCVを書いた.堀さん曰く「滞在期間の変更が効く」とのことだが,これはGMEでもらえる生活費の期間は延ばせず,自腹で現地で過ごす期間の変更が効くという意味でしかない.私は面接時に「留学期間が短い方がGME側の金銭的負担が減るので受かり易そう」と邪推し4か月としたが,受かってみたら半年や1年分申請しておけばよかったと少し後悔した.なお「この邪推をする必要はなかった」と当時のGME担当教員に言われたが真偽は定かではない.後輩は直接尋ねると良いかも分からない.
KTHの応募の話をする.細目は以下の通り
1. KTH residence
2. 取得単位
KTH residenceというKTHが住居を斡旋してくれるサービスがある.当時はなぜか”exchange student”枠ではなく,”2 years student”(表記は忘れたが,普通の修士生の意)枠でしか住居の応募ができなかったが,別に交換留学生である我々が応募できないという仕様ではなかった.不思議である.平均程度英語は分かるので読解ミスだとは考えにくいと信じている.
基本的にGMEプログラムは研究室配属で研究メインの留学であるが,ほかのコースと共通の応募フォームのため,どの授業を取得するかを選択する必要がある.基本的には30単位分を適当に選択すればよいとのことだったため,修士論文,のような1つで30単位の授業を選択しておいた.[1]
とあるが,堀さんと異なり私は,自分が行く研究室が担当する修士論文30単位を選択することを推奨する.理由は2つある.
1. KTHの事務にこのことを話して面倒なことになったから
2. 留学中,指導教員に一筆書いてもらうと30単位分受講中である保証書(mecenat)が発行され種々の交通機関等の割引サービスが受けられるため
それはある日のこと,KTHの事務から「修士論文単位を取るならこの応募用紙を記入してくれ」と連絡があった.その時に丁寧に「自分はそういう体裁で単位を申請しているだけなので応募用紙は書かない」と返したのが面倒の始まりだった.(模範解答は無視だったらしい)すると,事務側から自分が行く研究室が担当する修士論文30単位に変更しろと言われ,はたまたそれが後述する移民局に提出する資料も変える必要があるとかないとかで混乱した.
mecenatに関しての要点は上記の通りである.電車や家電量販店,服屋でも使える便利なものだった.自明だが一筆書いてもらうには,その指導教員が担当しうる修士論文30単位を事前に選択しておく必要がある.
私もほぼ同時期に先方の研究室とメールでのやり取りを始めた.私の指導教員(これからはCarlと呼ぶ)はとても忙しいので初回のメールは埋もれた.これはある程度仕方ない部分もあるので,KTH側のGME責任者に催促してもらった.私のやる気を示すために宿題を欲しいとCarlに伝えたが,東大にいるうちは東大の研究を全力でやった方が自然だと自分に言い訳して結局宿題は完全には終わらなかった.別にCarlにも何も言われなかったので,そこまで気負う必要はなかったと振り返って思う.話が散らかるが,指導教員をfirst nameで呼び捨てにするのはスウェーデンだと自然である.すぐ近くのドイツは日本型で肩書を付けて呼ぶそう.
Residence Permitの申請を行った.この時滞在費がちゃんとあるのか口座の残高証明等で示す必要がある.自分はこのGMEの奨学金に加え,JASSOで修士課程中の奨学金をもらっていたので,その奨学金の証明書を取り寄せていたら時間が取られた.郵送まで2週間くらいかかる.したがって,親に土下座して(15万円/月)x(滞在月)のお金を一時的に借りて銀行口座に入れてもらうのが早くてシンプルでおすすめである.
*15万円は適当な数字なので各自移民局の指示に従ってください.
Residence Permitを提出して,申請結果が出るまで私は1か月かかった.さらに私は恥ずかしいことに申請書類に不備があった.このとき既に7月末で8月頭に行きたいと思っていた私は不備への詫びと急いでいる旨をつらつらと書いて結局8月18日に渡航した.
pre-sessional English course
私もオンライン開催だったものを受けた.これは良い講義なので受講をお薦めする.イランとパキスタンと中国の人と仲良くなって,KTHでもちょくちょく会う仲になった.後述するが,研究室内では周りはPh. D studentばかりなのでこれは似た境遇,似た緊張感の人と仲良くなれる少ない機会である.
また,国際的に伝わる英会話を習うので,各国のアクセントやイントネーションを前提とした上で伝わりにくい発音は注意を受けた.例えば私はディスカッション中のlargeのaを伸ばさない悪癖を注意された.完全に自覚がなかったので驚いた上で非常にありがたい経験だった.
所感
私もこれから月並みなことを書く.
私は8月18日に渡航したが,先述の通り欲を言えば8月初旬に渡航したかった.初旬に行けば,研究室の年度初めの顔合わせに出席できる.自分が所属したところは大きい所だったので,同僚の名前の発音や研究内容を個別に聞いたりするのが大変だった.名前の発音を覚えるのは非常に重要である.国際色豊かなのでスペルから想像できない発音だったりするし,時間が経ってしまえば改めて聞くのは気が引ける.
もう1つ8月初旬に行くメリットは学生団体THS主催のイベントに参加できることだ.ルームメイトの小島さんはたくさん参加してて楽しそうだった.
冬は寒い.12末で帰国したが,雪用のブーツと靴下,インナーウェアーを現地で買い足した.ユニクロはあるにはあるが,値段が日本のそれの倍近いのでユニクロの現地調達はお薦めしない.雪国だから日本より防寒具の品揃えが良いかと聞かれると良くわからないというのが正直な所である.打って変わって,冬の室内は日本より温かい.一般的な日本の家屋の断熱が良くない話は真実である.
食料品系に関して外食は高いが,スーパーの食料品の値段は概して日本と同じくらいだった.みそやジャポニカ米は高いが売ってはいる.スウェーデンは移民が多いので,大きいスーパーだとトルコ,韓国,中国,インド料理用のコーナーがあったりした.私は基本的にミートソースを無限に作り置きしてパスタと和えて食べて過ごした.そしてたまにインドカレーを食べたり,コストコで買い物したりしていた.近くのベトナム料理屋のフォーは美味しかった.コンビニ弁当は一回,こてこてのチーズラザニア(というよりただのチーズ)を食べきれず残した経験から,全く買わなかった. お薦めとしては,ウェイパーか創味シャンタン,顆粒出汁を持参することである.これらは私はそもそも入手できなかった.(顆粒だしはあった気もするが高かった気がする)
治安は基本的に良さそうである.とはいえ,友人の一人がレストランでリュックを盗まれた事案はあるので,日本の様な安心感ではない.治安面で自転車を日本から輪行して持っていくか悩んでいるニッチ層に向けて話すと,基本は大丈夫そうである.学校校舎側は,研究室自室に自分の自転車を運び入れる人が多数なので完全に安心である.住居側は,Taby寮であれば屋内駐輪場があるので安全である.
Carlにおすすめされた中古の自転車屋でおんぼろマウンテンバイクを買った.サイクリングは最高である.2023年度中は未だに現地の友達に渡したままであるので,2023年度の採択生の希望者は私の自転車が使えるかもしれない.
旅行は2回した.オーロラとノルウェーのフィヨルドである.
オーロラツアーとしてLight of Viking社の3日間ツアーに参加した.結果は現地ガイド曰く最高.オーロラの詳細はあえてここには書かない.現地で確かめることをおすすめする.秋がベストシーズンらしい.
フィヨルドはリアス式海岸とは全く次元が異なるものだった.夏がベストシーズンである.
医療はとてもよかった.風邪と乾燥による皮膚の炎症の2回通院した.保険はGMEで言われるものを買うのだが,日本語通訳の方を無料で呼ぶことができる.これが地味にありがたく,英語が人並みにできる自信はみなさんもあると思うが,体調不良中で医療用語を英語で言われて疲れないわけがない.安心して通訳さんを頼った.
完全な裏どりをしていない話で容赦されたいのだが,スウェーデンにもマイナンバー制度がある.これがあると医療等やSIMカードの購入等で非常に便利なのだが,1年以上いないとそのパーソナルナンバーの申請はできない.しかしこれは伝聞でしかないが,1年以下の短期滞在者向けにもそういう類のパーソナルナンバーの代替システムがあるらしい.それを申請することをおすすめする.
KTHの研究は東大の研究の近接領域であることもあり,Carlとある程度フラットに議論できて非常に良い経験になった.Carlは放置気味のタイプだったが,私も放置されたいタイプだったので良かった.もちろん要所要所で会議を行い有意義なディスカッションを定期的に行った.
また,その私のKTHでの研究と似た領域を研究していたPh. D studentのPhilipと懇意にさせていただいた.Philipは今年卒業予定だったので最後に製本された博論をいただけて嬉しかった.
そんなKTHの研究は日本帰国後も続けている.最終的には私がファーストオーサー(のはず)の論文が書けそうである.嬉しい.
強いて後悔があるとすれば,ないものねだりだがもっと研究をせずにPh. Dの方々と遊んでおけば良かったということだ.根詰めて研究すると結局東大で研究している状況と大して変わらないのだ.Ph. Dの有志で温水プールで遊ぶ企画があったのだが,水着を買うのが面倒というしょうもない理由で行かなかった.水着をみなさん持っていくことをおすすめする.
最後に
このようなプログラムを作っていただいた関係者に感謝である.もちろん主体的に動く必要性は日本より高いが,主観的かつ客観的な幸せを掴めるプログラムであり,この幸運を掴んだ方はぜひ充実した日々を過ごしていただきたい.
[1]2018年度の堀さんの留学体験記
システム創成学専攻 川畑研究室修士1年 諸星 璃月
留学生の1日
2022年度
-> 精密工学専攻 伊藤高松研究室修士2年 水谷 あやな
-> 機械工学専攻 ムテルドゥ研究室修士1年 谷内田 大貴
-> システム創成学専攻 川畑研究室修士1年 諸星 璃月
2021年度
-> システム創成学専攻 髙橋研究室修⼠課程1年 森島 拓⽣
2018年度
-> システム創成学専攻 鳥海研究室修士1年 菊田 俊平
-> 機械工学専攻 高木・杵淵研究室修士2年 堀 直樹
-> 精密工学専攻 梅田研究室修士2年 岡田 有希
-> 機械工学専攻 山中研究室修士1年 樗木 浩平
2017年度
-> システム創成学専攻 村山研究室修士1年 木村 圭佑
-> 精密機械工学専攻 金研究室修士1年 森下 靖久
-> 機械工学専攻 高木・杵淵研究室修士2年 中西 紘章
2016年度
-> 精密工学専攻 梶原研究室修士1年 菊池 章
-> システム創成学専攻 福井研究室修士1年 四方 裕
2015年度
-> 精密工学専攻 小谷研究室修士1年 加藤 直之
-> 機械工学専攻 塩見研究室修士1年 桐谷 絵美
2014年度
-> 機械工学専攻 塩見研究室修士2年 二田 智史
-> 精密工学専攻 藤井研究室修士2年 松本 倫実
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